9 スローンスクエアでショッピング パートリッジス3

  • 2012.03.19 Monday
  • 19:49
 次はジャムの売り場に向かう。ウィルキンソンとかダッチー社のジャムが山積みになっている。ストロベリーやマーマレードやブルーベリーである。ジャムはビンの中でキラキラとしていて、本当に旨そうだ。
 しかし、うーん、荷物が重い。シャンプー1ダースに、沢山の英国紳士系オヤジグッズと、ビン物の入ったカゴが重い。
 僕は外国旅行に来ると、いつも、水物だの、粉物だの、かさ張る生活用品ばかり購入してしまう。最近、著明な名産品みたいなものを購入したことがない。時を同じくして、名跡だとか有名観光地にも足を運ばなくなってしまった。
 ふと、そんな記憶の端くれをみたら、手帳とペンと、そして思索をしてみたくなる。そろそろショッピングを切上げて、ホテルに帰るか。ミルクティでも飲みながら、文を書いてみようか……と、ジャム売り場を立ち去ろうとした時、見つけてしまった。
(ヴィンテージ・マーマレード)
なんだ、なんだ! ヴィンテージって。僕はウィルキンソンのジャムのビンを棚から手に取った。色はオレンジではなく茶色い。もしかして、発酵させてあるのかな。これ、日本で見たことないな。そして、その隣にも、
(ヴィンテージ・ストロベリー)
あ、ストロベリー・ジャムもあるのか。ちょっとこれは、食べてみないわけにはいかないな。発酵してあるとしたら少しアルコール分が含まれているのだろうか。
 僕は未知の味わいについて思いを馳せる。だいたい、こういうご当地ものを探り当てるために旅しているようなものだから。そこから出ることのないものを。連綿と受け継がれているものを。
 僕は2つのジャムのビンをカゴに入れたのであった。いい加減、重い。

 レジに向かう。
 インド系のおばあちゃんが指をなめるようにして商品とお金をチェックしお釣りをくれた。後ろ髪引かれる思いで、パートリッジスを出る。
「また、来よう」
 僕はヨーク公爵スクエアを横切り、スローンスクエア駅に向かった。

 (完)

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8 スローンスクエアでショッピング パートリッジス2

  • 2012.03.16 Friday
  • 19:00
 結局、英国産マヨネーズを2つほど買い物カゴに入れてしまった。小さいが、ビン入りだから結構重い。帰りのトランクの総重量が気になるところだ。
 でもさ、食べてみないことには、わかんないよなー。だって、大人になるまでキューピー一筋だったわけだから、もっと色々と体験してみないと。しかし、いくらなんでも日本にまで持ち帰るのは、あれだから、とりあえずホテルの部屋で開けてサラダとかポテチにつけて食べてみよう。
 今度は、隣のマスタードに目が釘付けになった。英国製マスタードだ。コールマンの歯磨きチューブ入りタイプがある。この黄色いマスタードは日本でも大変有名なのだが、チューブ入りのパッケージは日本であんまり見たことがない。
 僕は練りマスタードが好きだ。黄色いべっとりとしたマスタードである。粒粒マスタードは薫り高いし、なんとなく本物感が漂っているのだが、実際に食べてみると、辛味と旨みが練りより少ない。山椒を粒のままでいくか、粉でいくか、の違いだ。僕は山椒も胡椒も赤唐辛子も微塵の方が好きなのだ。噛まずに舌でねっとりと味わいたいのである。理由はやっぱり、歯が悪いからかな。
 一方、ハニーマスタードは好きではない。日本の甘辛の味付けにさほど魅力を感じないのと同じ理由だ。
結局、チューブ入りマスタードをひとつカゴに入れてしまった。マスタードのパッケージとしてはチューブ入りが合理的で最もいいと思うのである。

 次はスイーツ売り場に戻る。ミントチョコレートとオレンジチョコレートがたくさん置いてある。夢のようなチョコレート売り場だ。ダッチー社のチョコレートをそれぞれ購入。ミントはダークチョコレートでオレンジはミルクチョコレートである。コーヒーと一緒に頂けば最高だ。あ、ロンドンに来て、初めてコーヒーが飲みたくなった。
 隣にチョコレートコーティングされたジンジャービスケットを見つける。ダッチー社のこのビスケットって、旨いんだよなー。チョコレートが美味しくて、とても滑らかなのだ。そして生姜の効いたビスケットは滋味と刺激にあふれている。つい、一箱買ってしまう。ところで、このクッキーを食べる時は紅茶にするかコーヒーにするか悩むのだ。どちらも合う。稀有なスイーツのアンフィビアンなのである。
 トリュフやナッツ入りのチョコレートに後ろ髪引かれながらも、限がないので、次のコーナーへ。

 肉のコーナーには、たくさんの種類のサラミが置いてある。どれもムッチリとして、とても旨そうだ。パッケージを手にとって見ると、イタリア産、デンマーク産、英国産、アメリカ産、オーストラリア産と、世界中からサラミがこのロンドンに送られてきているようだ。 
 一見、イタリアが一番素敵である。透度が高くて張りのあるビニール袋に入れられた、ざらっとした白い紙に万年筆で書かれたような素敵なパッケージ。サラミの茶色と白いラベルのコントラストがシックである。オーガニックで丁寧な手作り高級サラミなんじゃないか、と思わせる。
 一方、それと対照的なのはオーストラリアである。ぐにゃぐにゃとした緑のパッケージはシャウエッセンみたいだ。値段はオーストラリアが一番安い。イタリアの半分である。中身を見るとオーストラリアは太くて長い。イタリアは細くて短い。さらにオーストラリアはずっしりと重いが、イタリアはなんとなく不当に軽い。
「だ、だまされちゃいかん」
僕はオーストラリア産をカゴに入れた。オーストラリアの方が多分いいような気がする。垢抜けないが、生真面目で、中身はしっかりとしているはずだ。シックなイタリアは、そっと棚に戻しておいた。
 ところで、子供の頃に風邪をひいたとき、あなたは何を食べさせてもらいましたか?
 友人に聞くと、果物とか、お粥とか、が多かった。卵酒なんていう古風な人もいました。僕の母はプリンとかゼリーを買って食べさせてくれました。それ、かなり変っているねー、とよく言われます。アメリカ人はチキンスープで、ヨーロピアンは果物が多かったです。
 色々な人に聞いてまわりましたが一番変っていたのはドイツ人。風邪を引いて、熱が出て、学校を休んで、ベッドでうんうんうなっている時に、
「お母さん、サラミ欲しい」
ドイツ人、サラミを食べるそうです。風邪ひいたらサラミ。

 つづく
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7 スローンスクエアでショッピング パートリッジスに入る

  • 2012.03.08 Thursday
  • 21:34
 僕はペンハリゴンズを出て道を渡ったらキングスロードを駅に向かって歩き始めた。スターバックスがあった。
 ロンドンに滞在していると、体が要求する紅茶:コーヒー比が普段とは大幅に変化する。ホテルやレストランやそしてファストフード屋と、どの店でミルクティを飲んでも、とても美味しいからだ。ロンドンに到着してからは、
「飲み物はミルクティをください」
と言い続けていたためか、脳内ではミルクティ・スイッチが入ってしまったようだ。今日は朝からミルクティしか飲んでいない。コーヒー飲んでいない。僕はスターバックスをそのまま素通りしてしまった。普段は、街中でスタバとドトールを見つける度にいちいち入店してしまうのだが……。
 キングスロードの両側には3階建の低層な建物が続いていて、とても綺麗に整備されている。煉瓦と黒のロートアイロンに白い窓、道路には真っ赤なダブルデッカーと黒のロンドンキャブ。ロンドンの配色と風景だ。
 駅の近くにサーチ美術館があり、ヨーク公爵スクエアがある。スクエアはモダンなデザインで、長いベンチが設置されている。犬と一休みしている女性、飲み物を片手に一息ついている男性、サンドイッチをつまんでいるビジネススーツの男性、ビーニーにジーンズで本を読んでいる若者、がベンチに座っていた。
 サーチ美術館の向かいに、パートリッジスはある。明るめの茶色い煉瓦の建物はとても愛らしい。そこは小ぶりな高級スーパーマーケット。英国内外の素敵な食材がギッチリと詰まったお店だ。ニュヨークのディーン&デルーカみたいなスーパーである。
 店内はフォートナム&メイソンに似ていなくもない。でも、少しコンセプトが違う気がする。フォートナム&メイソンはどちらかというと、かなりよそ行きな感じだ。だからお使い物を買いにいく人が多いのではないかと思われる。
 それに対して、パートリッジスは普段使いの延長にある感じである。気取ってなくて、パワフルで、リアルな食材が置いてある。とにかく美味しいものがギッチリと並べられていて、外見よりも中身で勝負だ!と言わんばかりのスーパーなのである。だから僕なんかは、もちろん血眼になってしまうのである。

 店内に入る。入口の側にスイーツ売り場がある。その裏は乳製品と肉製品のコーナー。奥にはデリもある。果物や野菜も売っている。
 僕は旨そうなマヨネーズを見つけた。あー、買って帰りたいなあ、見たことのない英国産マヨネーズ。僕は外国のスーパーに入ると最初にマヨネーズを探してしまうのだ。マヨネーズが気になって仕方がないのである。
 もちろんキューピー・マヨネーズに不満があるわけではない。キューピーには子供の頃からお世話になっている。ツナ缶に、お好み焼きに、紀文の竹輪に、ぶちゅっと絞って、つけて食べればとても美味しいし、プラスチックの容器は絞り出しが簡単で、最後まで清潔であり、スプーンを使う必要もなくて、素晴らしいグッドデザインなのは間違いない。それは、わかっている。わかっているのだが、実のところ、僕は、ちょっとだけキューピー・マヨネーズに懐疑的なのである。
 キューピー・マヨネーズって、色が黄色すぎやしないか、粘りすぎやしないか、味が濃すぎやしないか、酸っぱすぎやしないか、と。

 初めてフランス料理のビストロに入った時である。前菜に並んでいたのが、ゆで卵マヨネーズであった。ゆで卵を二つに切って、大振りのスプーンでマヨネーズをドーム状に塗って、そこにパセリがドサっとかかっている、あれだ。
 半分に切られたゆで卵の断面には、卵の半分の高さにマヨネーズはこんもりと盛られていた。
「このゆで卵マヨネーズは、マヨネーズつけすぎだろ」
僕は直観的に判断した。初めての料理だが、そう判断した。そのゆで卵マヨネーズは料理の味付けとして酸味が強すぎると思ったのである。その根拠にあったのはキューピー・マヨネーズの味覚の記憶であった。
 僕は、皿から一つとって、おそるおそるそのゆで卵マヨネーズを食べた。多分、酸っぱいだろうなあ、絶対マヨネーズつけすぎだって……もぐもぐ、もぐもぐ、あり? なんかまろやかで、塩梅良くて美味しいじゃん。ぜんぜん酸っぱくないし、マヨネーズもくどくない。てんこ盛りのマヨネーズは、口に入れるとさらさらと溶けて、茹で卵と一体になり、そこにパセリのほろ苦みが加わってきて、なんか凄く美味しい!
 僕は速攻で次のゆで卵マヨネーズを取った。そして、先ず、じっくりと観察してみた。マヨネーズが白い。キューピーより白い。そしてフォークでつっついてみる。軽い。ふわっとしている。そして、すくってなめてみる。うーん、あっさりとしていて、まろやかで、とても新鮮な感じだ。
 どういうこと!! これがマヨネーズ!?
 その時、僕の脳内マヨネーズ=キューピー・マヨネーズ体制はガラガラと音をたてて崩れていった。し、知らなかった。マヨネーズってキューピー・マヨネーズの事じゃなかったんだ。
 そう言えば、豚バラ肉を牛肉だと教えられて育った男の子の話を聞いたことがある。中学生の時に、友人宅の鍋パーティーに招待され、お皿に盛られた豚バラ肉を見て、
「白菜と牛肉の鍋って、本当に美味しいよね」
「え、これ豚バラだよ……」
「何言ってんだよ、これ牛肉でしょ。家じゃあ……」
「いや、これは豚バラ肉だ。じゃあこれから肉屋に行くか?」
「……」
彼はパーティーの次の日、学校を欠席したそうである。
 同じようにキューピー・マヨネーズじゃないマヨネーズだって、僕にとってみれば、多分、彼と同じくらいにショックだったと思う。喩えてみれば、つき合っている女の子に、実は数年前から他に彼氏がいたの、と告白されたみたいだ。
 僕は25歳だった。

つづく


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6 スローンスクエアでショッピング

  • 2012.03.06 Tuesday
  • 21:04
 アンダーグラウンドにのってスローンスクエア駅で降りた。地上に出ると駅前にスクエア(広場)がある。緑が大きく繁り中央には噴水がある。噴水は白い大理石でつくられ、マットブラックの彫刻から水が出ている。真赤なダブルデッカーがスクエアを囲むように走っている。ルーレットみたいに。背後には茶色い煉瓦の建物が続いていく。
 向かいにピータージョーンズというデパートがある。中型のデパートで実用的な品揃えが特徴だ。フランスやイタリアのハイファッションブランドは置いていない。もう少しリアルな商品がセレクトされているように思う。シックな場所柄を反映してか、インテリア用品はなかなか見ごたえがある。そしてブランド物ではなく、ロンドンならではのしっかりとした商品を買いたい、という方にこのデパートはお勧めなのである。
 例えばモルトンブラウンのシャワージェルは17ポンドで売っている。時々セールをしていて、2個入りパックは28ポンドだった。東京のコンランショップで1個4200円だ。タオルや食器はモダンで質の良いものがセレクトされている。値段は安いとは言えないが、少なくともリーズナブルであるとは言える。
 僕はハロッズやハーベイニコルズよりピータージョーンズでショッピングをする方が好きだ。店内はそれほど混雑していないし、モード最先端のハイファッションブランドは高すぎて手が出ないからである。ブランド物なら日本のアウトレットで買えばいいかな、とも思う。少し型遅れでいいのなら、その方が安いのである。
 ピータージョーンズは、ベルトや靴下、セーターやシャツにマフラー、そしてカフリンクやタイピンや手袋などの英国紳士系グッズがとても充実している。
 シルバーのカフリンクスが25ポンドである。いいデザインだ。シャツを通す柄の部分も微妙に丸くなっていて、使い勝手もよさそう。次に、手袋を見つけた。艶光してグラデーションの美しい茶色の手袋が30ポンドだ。これも買い。そして革靴を履く時によさそうな靴下を見つける。1足4ポンド。うん、悪くない……あれも、これも、とわさわさと買い込む。これから2、3年はオヤジグッズに困ることはないな、スーツは年に数回しか着ないから。
 ピータージョーンズを出たらスローンストリートを歩いた。高い建物がなくて歩道が明るい。5分も歩くとペンハリゴンズの支店があった。小さな新しい店舗だ。
 ペンハリゴンズは老舗の香水屋。ロイヤルワラントでもあり本店はコベントガーデンにある。ブレネイムブーケという商品が有名で、チャーチル首相が愛用していたらしい。ニューヨークのウォルドーフアストリアタワーのアメニティでもある。
 僕はブレネイムブーケを30代のときに使っていた。ブレネイムブーケはフェアーでエスタブリッシュな紳士のイメージだと思っていた。その頃の僕はそういう紳士に憧れていたのだ。
 でも嗜好は変わってしまった。今はオーパスが好きだ。花の香りのするユニセックスな雰囲気の香水である。ペンハリゴンズの特徴である重層的でフェアーな紳士のイメージはそのままで、もっと明るくて華のある感じのする香水だ。オーパスの持つ自由な雰囲気は今の気分にぴったりだ。現在の僕は偉い紳士より自由な紳士に憧れているのだ。
 スプレータイプのオードトワレ100mlが75ポンドで、シャワージェルは25ポンド。オーパスのシャワージェルは東京や香港では手に入らないため、ロンドンで買うしかない。日本の代理店ができてからはネット通販もうまくできなくなった。
 香水の嗜好の変化は、その人の希求する自分のあり方の変化を反映しているかもしれない。いや、そんな小難しい言い方をしなくても、少なくともその人の気分を反映している、と思う。カメレオン的にコロコロ換えちゃうのも悪くないし、じっくりとひとつの香りと付き合っていく人もいるだろう。ペンハリゴンズはそのどちらにでも答えてくれる素敵な香水屋さんだ。ただし、女性用の香水については、僕は皆目わかりません。
 僕はペンハリゴンズを出た。右手が重い。すごく重い。ついつい欲張ってオードトワレを2個と250ml入りのシャワージェルを半ダース買ってしまった。そういえばピータージョーンズでモルトンブラウンのシャワージェルを半ダース買っていて、合計1ダース分のシャワージェルが右手を引っ張る。
 遥か遠いロンドンにまでやってきて、ようするにボディシャンプーを12個も買うなんて、そしてふうふう言いながらそれを持って歩くなんて、まったく何をやっているんだか。果たして帰りのトランクに入りきるのだろうか。だんだん不安になってきた。まあ、いざとなればクロネコヤマトで別送する手がある……。

つづく




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5 グロスターロードのホテルに戻る

  • 2012.03.05 Monday
  • 13:16
 ロンドンキャブの車内は広いので、足元に荷物を置けるスペースがある。グロスターロードの駅前を通ってホテルの前に着いた。黒のロートアイアンに囲まれた5階建ての白亜の館である。巨大な石柱の傍らにキャブは止まった。
「はい、着いたよ」
「どうもありがとう」
 荷物を抱えてホテルに入る。太陽神を描いた大理石のところで、いつものホテルパーソンと目が会った。彼はダークスーツを着た30歳を少し越えたくらいの優男だ。少しオレンジ色の入ったブロンドの短髪をきちっとなでつけ、白い肌と透き通るような空色の目をしている。頬に髭剃りの痕が青く、痩せていて顎と目つきが鋭い。
「ロンドンは楽しいよ!」僕は彼に向かって大きな声で言った。ホテルの静寂が乱れた。昼下がりのグランドフロアにいるのは僕と彼だけだった。
「そうか、そうか、楽しいか!そいつはよかった。ずいぶん荷物が重そうだな、手伝うよ」「いいよ、自分で持てる。ありがとう」
「TOPMANに行ったのか?」
「うん。黒のロックTをたくさん買いこんで来たよ」
「ふーん、俺もいくつか持ってる」空色の瞳に一線の光が走る。眉毛を片方だけあげて。
 普段、彼はレセプションに真直に立って仕事をこなすゴージャスなホテルパーソンである。でも、さっきの笑顔はパンク好きのガキみたいだった。オレンジ色の髪と白い肌がダークスーツをモード感たっぷりにみせている。深紅のタイのノットは華やかに立体的だ。アメリカ人の対極みたいな顔つきをしていて、その憂いのある表情はロンドンならではの必然性のようにも思える。
「今度バーでも行くか?」「いいねー」「時々いいライブがある」「そりゃ最高。声かけてよ」
  
 部屋に戻る。とりあえず荷物をクローゼットのトランクの横に置いた。並べてみると荷物はすでにトランク容量を超過しているようだ。
「まあ、パッキングはあとで考えよう」
僕は植物学図鑑を取り出してソファに坐る。湯沸かし器にスイッチを入れた。
 ジリジリジリジリと湯沸かし器が鳴り始める。僕は膝元に植物学図鑑を置いてローズマリーのページを開いた。花壇の隅に植栽する品種を調べてみた「ミスジェサップ・ローズマリーが良さそうだな」。
 お湯が沸いた。トワイニングスのティーバックを箱から取り出す。昨日、駅前のスーパーマーケットに行って50個入りの箱を買ったから、この1週間の滞在で紅茶が切れる心配はない。冷蔵庫からミルクを取り出す。やはり昨日、1リットル入りミルク2つを買って押し込んでおいたのである。
 グロスターロード駅前にはウエイトローズとテスコという2つのスーパーマーケットがある。ウエイトローズの方が高級スーパーのようだ。ダッチー社の製品が目玉商品として置いてあるし、チョコレートなどもテスコに比べると比較的高額な商品が多い。
 ふと冷蔵庫内を見ると、トライフルが一つ残っていた。カスタードクリームをクレープで包んだ私製トライフルだ。
「さっきステーキパイとスコーンを食べちゃったからなあ」
と誰にともなく言い訳しながら、僕は冷蔵庫からトライフルを取り出す。
「悪くなっちゃうよな」
僕はトライフルをかじる。そして冷たいミルクを多めに入れた、ぬるめのミルクティを飲む。口の中でトライフルとミルクティが混ざっていく。クリープのコマーシャルみたいに。うまい。死ぬほどうまい。もう、死んでもいいや、カスタードクリームが血管に詰まるなら本望だ。
 以前書いたが、僕はカスタードとスポンジだけのシンプルなトライフルが好きだ。ベリーソースとか生クリームはいらん。この私製トライフルが、スポンジではなくクレープを使用している理由はウエイトローズにスポンジが売っていなかったからだ。次案としてのクレープ使用なのである。でも、ダッチー社のケンブリッジバーントクリームは超リッチなカスタードクリームで、クレープもまた色濃くて卵バターリッチなものである。このトライフルはとても美味しい。もしかしたら、すでに違う名前のデザートなのかもしれないが、トライフルを作ろうとした結果生じたデザートなのだから、トライフルと呼んでいるのである。
 僕はトライフルを食べ切り、一杯目のミルクティを飲み干し、2杯目のミルクティを作っていた。
「今朝からどんだけ食べてるんだろう」
朝はホテルのイングリッシュブレックファーストだった。ドライフルーツ入りシリアルとミルク、トースト2枚にバターとイチゴジャム、フライドエッグは卵2個分、ベーコンとソーセージ、ミルクティを2杯、温野菜少し。昼にステーキパイを立ち食いして、その後おやつにミルクティとスコーンを食べた。そして、今、2回目のおやつにトライフルとミルクティ。
「食いすぎだなあ」
そして食材について考えてみる。粉とバターと卵と砂糖ばっかり……。それに牛肉と豚肉のミンチ。ジャガイモと玉ねぎに野菜が少しである。仕上げにポテトクリスプス(ポテトチップス)を食べたら、もうなにかジャンキーなデブのロイヤルストレートフラッシュが完成だ。ロンドンのスーパーには、たくさんの種類の旨そうなポテトチップスが置いてある。東京の高級輸入食品屋においてあるグルメポテトチップスも売っている。ジャガイモの種類がとても多くて、それぞれにとても個性的な味わいなのである。日本で米の種類がたくさんあるのに似ている。僕の頭の中ではポテトチップスがひらひらと舞いはじめていた。
「まずい、まずい、今夜はサラダだけにしよう」とポテチへの思いを絶ちきるようにして、決意した僕であった。
 さあミルクティを2杯飲んで、一息ついた。時計を見ると午後の3時だ。まだまだ時間はたっぷりあるぞ、よーし、コベントガーデンはちょっと遠いから近場のスローンスクエアでショッピング再開だ。
 僕は元気よく手ぶらでグロスターロード駅に歩いて行くのであった。
  
 つづく
 


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4 メイフェアにてショッピング

  • 2012.02.29 Wednesday
  • 12:54
 フォートナム&メイソンの前にたどり着いた。僕には、この小さなデパートこそがメイフェアの中心に思えるのである。
 フォートナム&メイソンは想像するほど大きなデパートではない。小ぶりでクラッシック、シックでキュートな建物である。飾り窓のディスプレイには、なかなか趣向を凝らして商品が並べられている。僕は重厚な木のドアを開けて店内に入った。グランドフロアは食品売場である。緑色の缶に入った紅茶、クッキーや蜂蜜などが並べられていて、おもちゃ箱をひっくり返したみたいにキラキラとしている。フォートナム&メイソンが偉大だと思うのは、このキラキラ感の所以である。ナイツブリッジにあるハロッズは広大な売り場スペースと凝りに凝ったディスプレイが有名なデパートだが、フォートナム&メイソンの放つこの小粒な輝きには一歩及ばないと僕は思っている。
 商品棚を見る。欲しいマヨネーズがあるが、帰りのトランクが重くなるのでやめておく。同様の理由で蜂蜜も却下する。見れば見るほど、欲しいものがたくさんある。スコットランド産の有機栽培オートミール缶もあるし、ドライフルーツとナッツ入りシリアルは滋養の光を放っている。ドライサラミはテラテラとしていて旨そうだ。ミントチョコレートは最高のカカオを使っているに違いない。うーん。ここにある商品が全部欲しい。
 僕は両手の荷物に目がいく。H&M とTOPMANと靴。もうすでにたくさん買い物をしてしまっているのだ。うーん。困ったな。本当に困った。これ以上あんまり重いものは持てないよな。
 ということで緑の缶の紅茶を一つだけ買うことにした。
 次は奥のパティスリーを見に行く。カップケーキやクッキーやスコーンが焼きたてだ。フォートナム&メイソンのスコーンといえば、端正できちっとしたスコーンの女王みたいな姿を想像していた。しかし、実物のスコーンは大振りで、形は崩れていて、わりとワイルドなスコーンであった。新宿高島屋の方がきちっとしている。少し拍子抜けしたが、もう一度まじまじと見ると、そのラディカルな仕上がりというのが手作り感満載で、良き食材を使っている当然性を示唆していて、とても旨そうなことに気がついた。即座に、僕はスコーンとミルクティを持ち帰りで頼んでしまう。
 後ろ髪引かれる思いで僕は店の外に出た。さあ、何処で食べようかな。公園のベンチで食べよう。僕は西に2ブロックほど歩いてグリーンパークに入った。
 ロンドンの公園で素晴らしいのは、芝生内に立ち入り放題であることだ。僕はのんびりと芝生の上を歩いて、空いているベンチを見つけた。南にはバッキンガム宮殿が見えた。
 スコーンの紙袋を開けると、焼けた粉の香りがつんとしてくる。僕はアジア人だがこの香りには安らぎを覚える。そこから連想できるものは温かい家や落ち着いた生活である。ヨーロピアンだったらより深い安堵感を抱くのかもしれない。
 僕はスコーンを一口かじる。もぐもぐ、もぐもぐ。ミルクティーを含む。スコーンはボロリはらはらとミルクティーに溶けていく。もう一口ミルクティーを含む。歯にまとわりついた粉も溶け出してくる。そして、僕はそいつをごっくんと飲み込む。ふー。
 上質だ。日常的な上質だ。何も言うことはない。これは幸せだ。温かい家が一番という幸せ。こういうコージーで飾り気のないところがロンドンの魅力のひとつである。よそ行き気分ではない本音のところで、恥ずかしいくらいに素の姿。多くの旅人はそこに共感を覚えるのではないか。

 グリーンパークで休憩した僕は同じ道を戻った。そして今度はロンドンで最もホットな店に向かう。ハッチャーズだ。僕にとってこの店は本当に危険なのだ。ハッチャーズは老舗の本屋さんである。英国で最も歴史のあるこの本屋はロイヤルワラントでもある。ロイラルワラントとは日本で言えば宮内庁御用達のことで、王族のメンバー各々がそれぞれ認定されるようだ。例えばエリザベス女王のワラントとか、チャールズ皇太子のワラントとかいうように。
 しかし、まずいなー、こんなにたくさんの荷物を抱えているのに、本なんか買っている場合じゃないぞ。強く自戒しているのだが、素敵な本屋を素通りする人生なんてあるもんか!と咆哮して、やっぱり入店してしまった。
 まずはノーベル新刊コーナーへ。男性作家、女性作家なんていうアホなカテコライズがないので気持ちが良い。以前、僕は有川浩さんを見つけられなくて困ったことがあるのだ。日本もそういうのは早くやめて欲しい。
 むくむくとミーハー心が湧いてきてMの棚を見に行くと、そこには村上春樹さんの本が山積みになっていた。隣の村上龍さんもかなりの幅を占領している。ほほほ、素敵な光景。
 新刊は重いので、さすがにパスして、ペーパーバックの薄い本を本棚から手に取る。素敵な詩集を見つけた。これくらいなら持てるかな、と購入決定。次はサイエンスのコーナーへ。
 いい感じの神経学の教科書を見つけたのだが、重いのでパス。そして植物学およびガーデニングのコーナーへ。最も危険なコーナーだ。
 英国植物学は奥深い。世界で最も使い易くて、まとまっていて、わかりやすい植物学図鑑は英国製である。知識の収集と蓄積において他国の追随を許さない。その英知の結晶みたいな、エメラルドみたいな本が眼前に積みあがっているのである。僕は分厚い植物学図鑑を手に取った。
 芍薬のページを開いてみる。むむむ、かなりマニアックな日本の芍薬の名前と写真が載っている。次は蝋梅のページを開いてみる。素心蝋梅(ソシンロウバイ)が載っている……なんなんだ、この情報収集力は。僕は英国人の植物への執念を感じずにはいられない。これが英国人植物学魂か。こんなにマニアックな本が一般アマチュア向けの図鑑として売られている……そして、値段が安い。内容から考えたら日本で4万円はするかもしれない。それがたったの75ポンドである。学問へのフェアーな姿勢に共感を覚える。
 僕はこの本が欲しい。どうしても欲しい。全2巻。重さと大きさはタウンページ3冊分くらい。……凄く悩む。本棚の前で悩む。後ろにソファーがあったので坐って悩む。
「買うしかないだろ」
僕は植物学図鑑2冊を持ってレジに向かった。
「あらあら荷物がたくさんね。その袋を貸して頂戴、ひとつにまとめてあげるから」
銀髪の女性が気を使ってくれる。笑顔が柔和である。僕はロンドンの書店とか図書館にいる女性が大好きだ。理知的でなおかつ親切なのである。
「イギリスの植物学図鑑は世界で一番素晴らしいと思う」
「本当。それはよかったわ。あなたは日本人かしら。日本の植物はイギリスでとても人気なのよ。日本は植物の種類が多いのね。うらやましいわ」

 ハッチャーズを出た。荷物のビニール袋はいよいよ掌に食い込んでいる。お、重い。メイフェア製オヤジグッズはあきらめよう。そしてこのあとコベントガーデンに向かう予定だったが、こりゃ無理だ。とりあえずいったんホテルに帰ろう。僕は道路に出ると向かってくる黒いロンドンキャブに手を挙げたのであった。

 つづく


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3 メイフェアに向かうが、その前にパブで英国ビール

  • 2012.02.28 Tuesday
  • 19:20
 僕はテーブルに坐って世界に思いを馳せている。おお、頬が温かくなってきた。ハーフパイントのビターというのは1パイントの半分で約236mlグラスに入った、苦い(ビター)ビールのことだ。ロンドンのパブでビールを飲んでいる僕だが、実は酒に弱いのだ。一般的なパイントグラス(約473ml)は手に余るのである。ビールをコップ一杯(180ml)でかなり気持ちよくなれるうえに2時間はもっちゃう。
 友人には酒の強い人が多い。それもなぜか素敵な女性に限って強い。彼女達いわくビールは酒ではないそうだ。酒とはブランデーとかテキーラとかウイスキーのことらしい。僕に言わせればそれは毒だ。危ないだろ、そんなにクイクイ飲んだら。
 彼女達にとってビールは、喉が渇いたときにキューと喉を潤す美味しい飲み物であり、酒ではないらしい。バーカウンターに並んで彼女達と飲むときには、僕は途中でコーラとかウーロン茶を頼んでいる。
 ある素敵な女性がジャックダニエルのグラスを傾けている。高い鼻を少し上に向けて、目を閉じて、ゆっくりとウイスキーを味わっているようだ。僕は彼女の飴細工のような横顔を見ている。長い睫毛の重なりがゆっくりと動くと、大きな瞳が流れてきて僕の握りしめている細長いグラスに向かう。頬が僅かに膨み、鋭く小さな顎の上にある繊細な口元が尖ると、唇のグロスが光った。
「あら、コーラを飲んでいるの? うふふ、かわいいのね、ベイビー」
素敵な女性に、いい年こいてベイビー扱いされるのはもちろん悪くはない。しかし、こういうときは悔しく思う。酒を飲めないのが悔しい。なんか男として、悔しい。でもまあ仕方がないな、あんまり酒飲むと倒れちゃうからな。
 パブの店内を見ると、男性二人が壁に寄りかかってパイントグラスを片手に会話していた。背の高い方は片手をジーンズのポケットに突っ込んで話を聞いていた。彼はパイントグラスを口元に持っている。背の低い方は、片手でパイントグラスを胸の前に持ち、空いたほうの手を返したり指で形を作ったりして背の高い男に何かを説明している。合間に二人はグラスを口に持っていってちびりとやる。そしてまた会話が始まった。
 僕はパブを見渡した。誰もがパイントグラスを持って、ビールをちびり、ちびりとやっている。ハーフパイントグラスを握り締めているのは僕一人だけだ。
 ところで僕は英国ビールが大好きだ。ぬるくてガスが少なくてとぼけた感じなのだが、味はしっかりとしている。
 英国のビールは麦などの材料を発酵させる時に常温で表面発酵という方法で作るそうである。その方法だと飲む時も常温が美味しくて、炭酸ガスの少ないビールになるそうだ。それに対してドイツビールは材料を低温で底面発酵させるそうで、冷やして飲むのに適していて炭酸ガスも強い。ご存知の通り世界の主流はドイツビールである。
 世界からみれば、英国のパブで飲める英国ビールはとてもマイナーな存在で、英国人が英国内だけで愛飲している、かなり変ったビールなのである。
 僕がそんな英国ビールを好きな理由は、その飲み方にある。ちびり、ちびりと飲むのにとてもいいのである。
 いつものビールは喉越しとガス爆発と苦味を期待して、グビーー、プハァー、と飲むのに適している。だから、そういうところに生真面目な日本人である我々には、冷たいグラスに入ったビールを一気飲みに近い感じで飲みきらねばビールを美味しく飲んだとはいえないという、暗黙の了解がある。そうじゃないと、
「あいつはビールの飲み方も知らねえのか」
みたいなことになり、結構それは面倒くさい。だから、ビールには一気飲み・オブセッションがあると言える。これが酒に弱い人間にはきついのである。2時間にコップ一杯程度のビールで丁度いいのに、それを一気飲みしなければいけなくて、一気飲みすればしたで、また新しいビールがコップに注がれている。空いたグラスにビールをお酌しないのは失礼だ・オブセッションによって注がれるのである。言い換えればビール瓶を持って誰かの空いたグラスにビールを注ぐのは社会人の常識である・オブセッションが日本には広く存在する。そして、せっかく冷えている新鮮なビールを何故君は飲み干さない・オブセッションは、注がれたビールを放置している僕に容赦なく襲いかかってくる。ということで、気持ち悪くなるまでビールを飲み、嘔吐。
 英国ビールは、そのオブセッションの螺旋から解放される。一気に飲んでもちっとも美味しくないのだ。ちびり、ちびりやっているとしみじみその良さがわかるビールなのである。自分のペースで飲んで、ゆっくりと飲んで、なんら問題のないビールなのである。僕は好きだ、英国ビール。
 さあ、トイレにいったら、メイフェア中心部に向かって歩行再開だ。丁度良く酔っ払っていて、とってもキモチいいー。

 つづく



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2 オックスフォードサーカスからメイフェアへ

  • 2012.02.25 Saturday
  • 16:37
 晴天の昼下がりのロンドンにて、僕はオックスフォードサーカスからピカデリーサーカスを目指して歩いていた。
 そしてステーキパイの後味がまだ口に残っている。さて、あれひとつで何キロカロリーあったのかな。中身は牛肉とポテトと玉ねぎと粉とバターに牛脂で、野球のグローブの大きさだから1000キロカロリーは軽く超えているかもしれない。道端でぺろりと食べちゃったのはまずかったな、などと内省しながら、僕はロンドンの街を真面目に歩くのであった。両手の荷物は重いのだが、2階建てバスにのって楽をしている場合ではない。一方ピカデリーサーカスへの道は基本的にダラダラとした下り坂で、さっきからなんだかとっても楽である。
 オールドボンドストリートの近くの街角に巨大なウイスキー樽がおいてあった。パブだ。外装は黒色の木板が貼られて真鍮のトリミングがしてある。古臭くて良き雰囲気が漂っている。
 テラスに置かれたテーブルに陽光があたっていた。分厚い木のテーブルは一見黒い。しかし、光と供に良く見ると、焦げ茶色のペンキが何重にも塗られていてなかなかの年代物のようである。光が塗りにあるわずかな赤味を透析している。その色合いは人の手のかかわりみたいなものに見えて、僕は胸に温かみを感じた。
 正月に英国を訪れた友人が、
「晴れた日がなくて、5日間の旅行中に太陽が出たのは3時間だけ」と浮かぬ顔をしていたのを思い出す。
今日がいつもの雨のロンドンだったら、テーブルは巨大な黒い塊であっただろう。
 パブに入ってハーフパイントのビターを頼んだ。グラスを持って外のテラスへと向かう。がっしりとしたベンチに坐ると分厚いテーブルは胸元の高さだった。
 ロンドンで陽光と供にビールを飲めるのは幸せだ。僕は例のぬるいビールをちびっと一口含む。ぬるくてとぼけていて旨い。
 18歳になって初めてある世界地図を見たことを思い出した。それはGMT=0が中心のPHILIP’Sの世界地図であった。小学校の教室の壁に貼られた地図とは全く異質のものだった。
 地球はカボチャみたいな形をしていて、世界の中心はロンドンである。アフリカ大陸がヨーロッパの南に控えていて、ポルトガルやスペインは世界の海へ飛び出そうとしていた。イタリアは地中海の真ん中で、とても大切に扱われている女性のブーツみたいに見えた。
 僕は不安になった。日本がない。何処に、日本はあるのだ。
 日本はユーラシア大陸の果てにある小さな孤島だった。世界地図では右端に、東に位置している。千島列島とサハリンによって辛うじて大陸と繋がっていた。ふらふらしたタツノオトシゴを見ているみたいに頼りなくて、むしろフィリピンやパプアニューギニアの方がまだしっかりと大陸に所属している感じがした。マダガスカル島の方がよほど世界に近かった。
 日本のあるところは、そこは世界の終わりで、そして世界からは完全に孤立していた。朝鮮半島だけが近くに寄りそっていた。
 僕は世界の中心で、例のぬるいビールを飲んでいる。

 つづく




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1 オックスフォードストリートでショッピング

  • 2012.02.21 Tuesday
  • 19:20
 ロンドンで買うものといえば、やっぱり服だ。
 オックスフォードストリートにはストリートファッション大型店が並んでいる。
 アンダーグラウンドにのってオックスフォードサーカス駅で降りたら階段を上ると、北西の角にH&Mがある。10年以上も前からこの有名店は何時いっても混雑している。
 ヨーロピアンの若者にまじって、僕はセーターとかシャツとかブルゾンなんかをどんどん手にとっていく。隣にはモミアゲの濃い男の子がTシャツを選んでいる。身長190cmはありそうな、ひょろりとしたカッコいい男の子だ。彼はLサイズを手にしている。僕はXLである。日本のH&Mにも同じ商品は並べられているのだが、サイズはMまでしかないものが多く、そして日本は高くて、だいたいロンドンの倍の値段である。アバクロに比べたらH&Mはまだましだと思うけれど、あの値段では気軽に買う気になれないな。
 僕は商品を一抱え持ってレジに行く。合計95ポンド。パンパンに膨らんだビニール袋を受け取る。
 次にTOPMANへ行く。H&Mより混んでいる。コジャレた高校生が多い。僕は黒のロックTが欲しくてここに来たのだ。2011シーズンはパンクとトラッドがミックスされたような服が多く、なかなか英国の伝統的な雰囲気も醸し出していて、ようするに店内は欲しい物だらけだ。パブリックスクールテイストが羨望である。TOPMANはいかついパンクではなくて、お坊ちゃんパンクが持ち味なのだ。僕は気に入ったTシャツをバンバンとっていく。るんるん気分で店内を隅々までチェックしたら、両手に抱えるほどの荷物になってしまった。レジにいくとH&M2個分のビニール袋になった。
 次にニールストリートへ向かう。靴屋さんがたくさんある通りだ。英国の靴は細いから、なかなかサイズが合わないのだけれど、欲しい靴がいくつも見つかる。オーラを発する靴が100ポンドくらいで売っている。明治通り沿いのセレクトショップだと5万円はしそうだ。僕は慎重にサイゴゴアブーツを一つだけ選ぶ。帰りのトランクで、靴はかさ張るからな。
 ショッピングはまだ序盤なのに、ビニール袋3つと靴の入った袋で両手が埋まってしまった。
 そして次は何処に行こうかな、と悩んでいるとステーキパイの店を見つけてしまう。店内をのぞくと、キツネ色にこんがり焼けたパイがころころと並べられている。餃子みたいな形をしていて、とても愛らしい。焦げたバターと牛脂の香りが店の外まで漂っている。いわゆる洋食屋の香り。だめだ、我慢ならん。僕はステーキパイの店の行列の最後尾にぴたりと張り付いた。
「大きいサイズをひとつください」
赤い制服のつやつやしたほっぺの女の子が笑顔で紙に包んでくれる。ハイスクールのチアリーダーみたいだ。
「はあい。熱いから、気をつけてね」
笑顔に送られて僕はストリートに出た。そして周囲をきょろきょろと見渡すが公園は見つからない。オックスフォードストリートはブロードウェイみたいで、ロンドンにしては緑の少ない雑踏とした街だ。ええい、面倒だ、このまま立ち食いしちゃおう。
 僕は歩道の脇でビニール袋を道端に置くと、パイを包んだ紙を開けた。バターの香りが湧き立つ。そしてラージサイズのステーキパイをまじまじと見ると、それはかなり大きい。野球のグローブみたいだ。キツネ色に焼けた巨大な餃子様のステーキパイ。なかなか幸せな外観をしている。
 がぶりと一口かじってみる。もぐもぐ、もぐもぐ。サイコロみたいなポテトがホカホカだ、あちち。中には玉ねぎと牛肉のステーキの小片がたんまりと入っている。味付けの基本は塩コショウだが、ウスターソースみたいな味もして、ローズマリーがつんとくる。肉味は濃くてポテトはほくほくしている。もぐもぐ。パイはさっくりと焼けていて、内層のパイ生地はねっとりとしてボリューミー。もぐもぐ。う、旨いじゃん、ステーキパイ!
 ラージサイズのステーキパイはポテトとステーキと玉ねぎがてんこ盛りなので、中身をこぼざずに食べ切るのはなかなか難しい。
 僕はステーキパイを食べ終わると、吉野家の大盛りを食べた感じの満腹度になった。あー、旨かった。最近のロンドンは旨いものが多いな。
 ふと道の向こうを見ると、ユニクロとMUJIを見つけた。お客さんがかなり入っている。日本のお店ががんばっているのを見ると、やはりとても嬉しい。
 さてと、次は何処に行こうかな。ロンドンショッピングといえば、やっぱりメイフェアだろ。ロイヤルワラント系や英国紳士御用達系オヤジグッズも買っとかなきゃな、ということで僕は南の方角へと足を向けたのであった。

 つづく


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