ナスと素麺の一体感

  • 2016.08.30 Tuesday
  • 21:44
 「北関東に食文化なし」
そう言われている土地に12年住んでいる。栃木県佐野市である。ここは関東平野の北限であり海の無いところだ。
 スーパーマーケットの魚コーナーで目につくのは、魚肉ソーセージにさつま揚げにチリ産の鮭の切り身である。あとは冷凍マグロのキハダとか。魚好きがこの土地に引っ越して来たら、眼前が真っ暗になってしまうかもしれない。もちろん関西のような華々しい牛肉文化もない。肉といったら豚である。あと鶏。
 しかし北関東というのは、土地がバーンと開けている。平坦なので田んぼや畑にするにはいい。そして日光の山々から水が流れてくる。だからお米や野菜はいくらでも採れるのである。
 なので、夏はいい。夏野菜が採れ放題。
 ナス、トマト、ピーマン、シシトウ、オクラ。最近は苗の改良が進んでいるのか、僕みたいな素人がプランターで作っても、野菜が採れてしまう。完全有機無農薬栽培も可能である。そしてスーパーマーケットに行くと、地元でとれた野菜のコーナーがある。朝採りの小振りなナスが5本で100円。シシトウやオクラもある。300円で新鮮なナスにシシトウとオクラが手に入ってしまうのだ。
 夏のある日、天気は晴れ、盆地の気候と同じように昼間は35度以上になる。暑い、本当に暑い。蝉があちらこちらで鳴いている。
「はあ、暑い。昼は素麺でいいか」
「いや、いや、そう言えばせっかく朝採りナスがあるのだから、気合でナスも料理しよう」
 素麺と焼きナス。
 素麺と茹でナス。
 素麺とナスのピリ辛炒め。
 うーむ…どれも魅力的だが、ちょっとあっさりしすぎていたり、ナスと素麺の一体感に欠ける。理想的なのは、ナスの旨味が料理全体にゆきわたっていて、夏バテしないようなパンチがあり、佐野の北関東な感じも備えたナス料理である。
 僕は考えました。
 現在の処、僕の結論は、
「北関東風肉ナスのつけ汁素麺」。
 ナスを味噌汁とかうどんの汁に入れるのは北関東の伝統的な料理だと思う(他の土地も同じかも)。しかしただ切って煮てしまうと、肝心のナスの味はぼやけてしまう。汁も水臭くなってコクがなくなる。呆けナスとはよく言ったものである。
 そうすると、やはり油ナスしかないよな。肉みたいな。
 ごま油とサラダ油を混ぜてたっぷりとフライパンで沸騰させる。中火で蓋をして小さく切ったナスを揚げるようにして、油ナスをつくる。僕はひとつひとつのナスの両面がきちっと揚がるように素早く箸をくり出す。こういうことについてはかなりマメである。素揚げもいいが、油がたくさん必要だし、油に染み出るナスの旨味がもったいないので、やらない。ナスをフライパンから取りだしたら、強火にして、豚ばら肉、シシトウ、オクラ、赤唐辛子、エノキダケを炒める。肉は少々焦げ目がついて、シシトウは青みが残る仕上げが理想である。そして油ナスをフライパンにもどしたら、うどんのつゆをジャーッと入れて、沸騰したら出来上がり。アツアツをフライパンからどんぶり鉢へ注ぐ。その間に素麺も茹でて、氷水でしめたら、ざるに取る。
 さあ、北関東風肉ナスのつけ汁素麺の完成である。熱いつけ汁で冷たい素麺をいただくのだ。
 ところで豚ばら肉は100g200円と高価だが、臭みが少なく旨味が濃いという高品位な肉が手に入るのである。僕の観察によると、地元のスーパーマーケットで入手できるタンパク系の食材は、豚ばら肉、豚ロース、鶏の腿、豆腐、油揚げに納豆である。一方、魚は全滅で、牛肉もやめといたほうがいいようだ。
 キノコ類はシイタケ、マイタケ、エノキダケ、エリンギはどれも工場生産品だが、安くて質は一定だ。この料理にはエノキダケが一番合うと思っている。
 ところで話は完全に飛んでしまうが、僕は旅に出ると街に泊まる。
 朝遅く起きたら、宿を出て道を歩く。
 カフェに行き、そしてマーケットに行く。するとその街に住む人々や、そこの生活についての想像が、おぼろげながら立ち上がってくる。そしてその瞬間に僕は旅する理由を感じるのである。
 美術館や博物館にはいかない。正確に言えば、僕の人生において、次第にいかなくなってしまった。あるいは僕の才能が貧しいから芸術作品を理解できないだけかもしれない。しかしその施設自体がその土地に住む庶民からすると、ろくでもない浪費であるケースが多い。その土地にとってみれば、余所行きなどを遥かに超えて、凄惨なこともあるのだ。元社会主義国だけの話ではなく、EUの豊かな国においてもあり得る。僕はその痛みみたいなものを、どうしても先に感じてしまうのである。
 それよりもカフェのテラスから、街を行き交う人々の様子を見ているほうがいい。そしてマーケットに行くと、その街で、あるいはその国で、どのようなものが売られているのか知ることができる。
 僕が探すのは、安くて美味しくて大量に売られている物産である。
 小エビや泥ガニが安く売られている南の街があった。北へ行くと豚の加工品であり、東では羊肉ばかりが売られている、牛肉が安い街もある。日本ならば異様に安いのは鶏卵である。
 何故、そのようなものが安く大量に売られているのか、あるいは買われていくのか、僕は想像する。もちろんそこに住む人たちがそれを好きだからであろう。でもそれだけではないと思う。地勢、民族、そして宗教や経済との関係性もあるかもしれない。
 そう考えていると、僕はそういうものを(文化)と一句で紋切りする気分には決して慣れない。
 北関東の食文化についてであるが、本当はそういう言い方自体が成り立たないというか、やや無責任な放言でもあるし、しかしまあそういう態度みたいなものも、面白くはある。つまり僕は文化という言葉が苦手であり、正面に据えることが出来なくて、どうしても茶化して使ってしまうみたいだ。
 北関東風肉ナスのつけ汁素麺は美味しいです。ナスの旨味がたまらない。つけ汁にはキレとコクがあり、そしてナスと素麺の一体感が素晴らしいと思います。


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