中華粥の郷愁感

  • 2016.10.29 Saturday
  • 14:52
 僕は中華粥が好きである。それもなんだか異様に好きなのだ。
 もちろん僕は日本人だから、日本のご飯が好きである。ご飯に塩鮭をのせて海苔で巻いて食べるのは好きだ。ちなみに塩鮭は新丸子の安田屋の辛口がマイ人生最高峰である。今でも下北沢のアパートから延々と電車を乗り継いで、新丸子へ買いに行く。途中、新宿でも渋谷でも塩鮭は売られているが、新丸子と比べるとお話にならない。焼たらこや辛子明太子で同じようにやるのも最高である。TKG(卵かけご飯)ももちろん好きで、ワカメの味噌汁があれば、もう言うことなしである。
 20世紀末、香港。僕は上湾界隈の麺粥屋にいた。人生初めての香港であり、僕は慣れない広東語のメニューに緊張していた。壁に書かれたメニューには意味のわからない漢字が並んでいる。猪肉ってイノシシの肉か?蝦って海老?腸粉って何? 僕は悩んだが、忙しい香港の麺粥屋でのんびりとしてはいられない。咄嗟にメニューを指さしで、皮蛋と豚肉入りのお粥を頼んだのであった。
 薄汚れたラーメンどんぶりが来た。頼んでから15秒くらいだ。しかし、どんぶりにはなみなみと中華粥が入っていた。粥の中央に一滴の黄金色の油がさしてあった。
 僕は半欠けのレンゲを掴み、グルグルと粥をかき混ぜた。予想に反して、結構、ねっとりとしている。米の臭いが凄い。かなりワイルドな香りである。下から豚肉の小片と皮蛋が出てきた。適当に崩したところをレンゲですくって僕は粥を吸い込んだ。
「あ、あつー!」
池の鯉みたいに口を開けてハフハフさせながら、目をギュッと瞑って、僕は天を仰いだのであった。眉毛はハの字である。
 う、旨い。めちゃくちゃ旨い。そして間髪入れずにふたつめ。ずずー。粥で口がハフハフ。ワイルドなコメの臭い、落花生油、分葱、そして突然、僕はもの凄い郷愁感に包まれた。びっくりした。なんなんだこの感じは。どうして初めて訪れた土地なのに故郷なのか。だいいちここは中国じゃないか。
 何が起きているのか、全然理解できないまま、僕はあっという間に粥を平らげて、200円ほどを払って店を出た。
 お粥で身体が温まった。しかし香港は僕には暑いので、汗が出る。それでも何か清涼なそして温かい気分なのであった。
 もちろん翌日もその麺粥屋に行った。その翌日も翌日も。一日に2回行ったこともあった。今でもとにかく香港に行きたくなるのは、この一杯の中華粥が始まりだったんじゃないか。

 話は現在に戻る。下北沢のアパートである。
 ああ、腹が減った。下北沢は中華料理屋とかカレー屋とか焼き鳥屋は星の数ほどもあり、店員さんの接客は最高だから、食べ物に困ることはない。
 でも、せっかくこの文章を書いているのだから、中華粥を食べよう。それも自分で作ろう。
 まず、米である。米は日本米だけだと香りが足りないので、タイの香り米と日本米を半カップずつ用意する。米を研いだら、ゴマ油とサラダ油を大匙1ほど加えて、軽く塩をふる。そして油と塩を米粒になじませるのである。土鍋に米の10倍の水を沸かして干し貝柱と干し椎茸を適量入れる。味覇も少し入れる。味はこの時点では薄めにしておく。あとは米を入れて1時間中火で煮るだけ。最後の10分で豚肉を入れて、それとは別に茹で塩卵を作っておく。あとは小ネギを切る。
 さあ、ラーメンどんぶりになみなみと中華粥を盛るぞ。卵を手で切って、小ネギをちらして完成である。
 僕は使い古しのレンゲで粥をすくう。一口、すすると、「あ、あつー!」。
 そして僕はやはりじわりと郷愁感に包まれる。天井を仰いでいる。何なんだろう、この感覚は。と同時に、ここまで書いておいて本当に申し訳ないのだが、なんだかあんまりこの感覚については分析したくないなあ、と気付いてしまった。面倒くさいんじゃなくて、何か、この感覚を大切にしたいなあ、と考えてしまいました。
 そして僕はどんぶり一杯の中華粥を平らげるのであった。まだ、いっぱいあるぞ。
 


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