日本食とロシア料理。そして大きな失敗

  • 2016.12.03 Saturday
  • 16:12
 食べ物について日本とロシアは幸せな相思相愛の関係といってもいいと思います。いやもしかしたらロシアの愛の方が強いかもしれないですね。
 インスタグラムを見ているとロシア出身のスーパーモデルがニューヨークで女子会をやっている。テーブルには日本料理が並んでいる。ロシアの人気ミュージシャンもモスクワでスーシーパーティをインスタグラムしている。モスクワにはスーシー24時間宅配サービスがあるそうです。
 スーシーは彼女たちのお気に入り。日本を旅して本場の料理を食べたい、という女性はとても多い。ロシア女性は日本食が大好きです。
 その愛にはいくつかの理由があると思います。一つは、日本のものは品質が高いという信頼感です。ロシア人は日本の製品や食べ物をとても信頼している。われわれがフランス産のバターを信頼するみたいに。また日本食は脂を使わない料理が多いので、ヘルシーであることも現代的です。またヨーロピアンにとってエキゾチックなのは日本食の特徴ですね。もちろんとても奥が深い食文化です。そして最も重要なのは、日本料理の味付けが好き、なことだと思います。日本は素材を活かした薄味の調理が基本です。その感性が普遍性を獲得しています。中華料理やインド料理は苦手だけど、日本食なら毎日でも食べられるわ、という人が多いんですね。
 
 まあ一言でまとめれば、日本食はセレブなロシア女子のお気に入りなのである。
 と、いつもの文体に戻った僕は、個人的に、そして日本人として、ここからしっかりロシア料理について述べたいと思う。
 ロシア料理は旨い、しかし脂っぽい。
 実はもう、この一言で終わってもいいのだが、それでは散文を書く意味がわからなくなりそうで恐いので、具体的に書きたいと思います。
 まずサラダである。ロシアで人気が高いのはもちろんオリヴィエサラダだ。ロシア語でサラートオリヴィエ。スペイン語圏ではロシア風サラダと呼ばれている。ジャガイモと人参を茹でて、サイコロ状に切ったら、ガラスのボールに層状に入れる。グリーンピースとハムとゆで卵の細切れを重ねる。そしてビストロではそのままテーブルへ運ぶ。ガラスボールは下から白、オレンジ、緑、黄色のミルフィーユになっていて彩りが可愛い。そしてテーブルで塩を振る。
「塩はどれくらい?」と、そこであなたはロシア女子に聞かれるであろう。塩気は人それぞれだから、という個人主義に基づいていると思われる。ここまではなんてことない。圧巻なのはここからだ。ボールいっぱいの食材へ向かって、日本ならキューピーのボトル半分からまるまる一本分のマヨネーズを投入するのである。そしてスプーンで丹念にかき混ぜる。
 ロシア女子は繊細な手付きでサラダをかき混ぜていた。横顔が張りつめている。。そしてマヨネーズでグチャグチャになったオリヴィエと称する料理が取分けられたのであった。
 僕は一口食べる。もぐもぐ、もぐもぐ。もちろん旨い。素材の良さと茹で加減、切り具合勝負の料理であるが、味に凝縮感が残るのは、混ぜ具合が絶妙だからか。しかし、やっぱりマヨネーズ多くない?
 次はペリメニである。ペリメニとはロシアの餃子である。スーパーマーケットは冷凍餃子を売っていて、なかなか旨い。しかし餃子はやはり手作りが最高だ。
 東欧圏ではキッチン用品としてペリメニの型が売られている。直径30センチほどの錫製の円盤で、穴がたくさん空いている。蜂の巣みたいに。その上にクレープ大の餃子の皮を載せて、穴のところに具を乗せていき、そしてもう一枚皮を被せる。それを麺棒でゆっくりと平らに伸ばしていくと、円盤の下にペリメニがたくさんできるようになっている。ペリメニはソフトキャップみたいな形をしているのである。
 そして具は、牛肉に玉ねぎが基本だが、チーズを入れてもいいし、鶏肉や羊のペリメニもあり、たくさんの種類がある。日本の餃子と比較すると、自由なのである。言いかえれば、文明的なのである。そしてそれを茹でて、水餃子風に食べるのだ。
 さあ、お皿にいっぱいのペリメニがやってきた。湯気がホカホカである。旨そうだなあ。ふと見ると横に小皿がついていた。日本の醤油皿を一回り大きくした感じだ。おお、ロシアも日本みたいに醤油とかラー油を使うのかなあ、旨そうだなあ、と僕は自分勝手に想像していたのだが、それは甘かった。よく見ると小皿には白いクリーム状のものが入っていた。
「何これ?」
「スメタナよ」「美味しいからつけて食べて」スメタナとはサワークリームである。
ちょ、ちょっと、待ってくれ。せっかくの水餃子みたいないい料理に、なんでわざわざサワークリームをつけるんだよ。叫びそうになった。
しかし、僕はぐっと我慢した。そういえば日本に「郷に入ったら郷に従え」という諺があるし、せっかくロシアに来てるんだし、やはりおすすめ通りに食べた方 がまずは無難なんだろうなあ…。
僕はペリメニをフォークでさして、スメタナをつけてから、口へ運んだのであった。もぐもぐ、もぐもぐ。旨い。餃子として旨い。皮の立体性による厚みの不均等が絶妙な歯ざわりを生んでいる。錫性円盤の形状に工夫がある。日本の餃子は旨いが、皮に変化が無い。その一点においてパスタとしてペリメニに完敗である。しかし、サワークリームはいらないよ。ポン酢の方が絶対旨いって。
「私はこのペリメニが一番好きなの」ウチの長女である。初登場だが中学生のロシア女子だ。
「一個ちょーだい」
僕は娘のペリメニを一つ奪った。娘は怒っているが、構わず口へ運んだ。もぐもぐ、もぐもぐ。それはチーズの具にラズベリーソースをつけたペリメニなのであった。もぐもぐ、うーん。まあ北ヨーロッパの味なんだろうなあ。イケアのレストランに行くと、肉団子にラズベリーソースつけてるもんなあ。
 それからスープである。赤いスープのボルシチは日本でも有名なのではないか。赤カブをしっかりと炒めてスープの素に使うので、スープが赤いのである。野菜は赤カブ、人参、キャベツが基本で玉ねぎを入れるレシピもある。それぞれの野菜を千切りするため、包丁一本だと作るのが大変かもしれない。こちらでは一般的に、パルミジャーノチーズをすりおろす、金属のメガホンみたいなキッチン用品を使うようだ。肉は豚でも牛でもいい、そして豆やジャガイモを入れればボリューム満点である。
 しかし本日僕がオーダーしたのは白いボルシチだ。普通のボルシチも好きだが、ロシアに少し慣れてきた僕は変化球を投げてみる。野菜とともに牛スネ肉が柔らかくなるまで煮込んである一皿であった。そこにハーブのディルをたくさん振っていただく。ほほほ、ほんとに旨そう。
「これをどうぞ」
ロシア女子がにっこりと微笑んでいる。彼女の手元を見ると、これまた白いクリーム状のものなのであった。またスメタナか…。なんでここでサワークリームかなあ。牛スネ肉の煮込みたいな、言わばとっともいい汁物に、クリームを足さなくてもいいと思うんだけどな。
「このほうが好きという人もいるのよ」
彼女の手にはマヨネーズがのっていた。
 さて、これを読んでくださっている方は、そろそろ顔面が脂っぽくなってきて、もういいよこってりした話は、と思われているかもしれない。でも、まだまだこれからなのだ。全ての料理にはメインディッシュがある。
 ロシアのビストロに座って、サラダ、ペリメニ、スープと突き進んできた僕であったが、この時点で日本なら3ヶ月分のマヨネーズとサワークリームを腹に注ぎ込んでいた。
 そして僕は大きな失敗に気付いていた。次にやって来る予定のメインディッシュとして、僕はビーフストロガノフを頼んでしまっていたのであった。
 うーん、今更、変更できないよな…。厨房では作っちゃってるよなあ。あ、運ばれてきた。
「ベフストロガノフです」ベフストロガノフとはビーフストロガノフのロシア語である。
 この料理はロシア貴族のストロガノフ家の伝統的なレシピによると言われている。ストロガノフ家はコサック人の傭兵を雇ってシビル・ハン国を倒し、ロシアの領土を東方へと拡大したことで有名な名門貴族だ。モンゴル軍によるロシアの占領から始まり、ロシア人の性格まで変えてしまったと言われる、タタールのくびきを解き放った英雄であり、そのついでにミンクの毛皮でバッチリ儲けたらしい。やり手であり、猛々しいイメージのロシア貴族である。そしてベフストロガノフはビーフシチューを上回るこってりとした料理であるが、力強いだけではなくて、極めて繊細なバランスを要求する料理でもある。
 牛肉、たまねぎ、マッシュルームを炒めたところに、仕上げにスメタナすなわちサワークリームを、たっぷりと絡める一皿なのであった。この料理のポイントは極上のスメタナが放つ新鮮な酸味にある。酸味がすべての食材を包み、高いレベルへと昇華させるのである。もしこれを生クリームで代用したら、あるいは煮込みすぎて酸味が失われたら、その味はがた落ちになってしまう。
 僕は熱々のビーフストロガノフの皿を見た。もの凄い量で、チャーハン大盛りくらいの牛肉がそこに鎮座していた。ソースの色は茶色っぽい白で、玉ねぎも、マッシュルームもシナっとしていて旨そうである。
 これが一皿目だったらなあ…。僕は後悔していた。順番というかロシア料理の食べ方をよく知らないと、こんな目にあってしまうのである。
 ふと見ると、中学生のロシア女子は、鶏とキノコのクリーム煮をガツガツ食べている。
「とらないで」
グラタン皿を抱え込んで食べ始めた。ああ大丈夫。もう、とらないよ。

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