豆油肉

  • 2018.05.04 Friday
  • 16:28
 久しぶりに(食は広州に在り 邱 永漢 1975年初版)を手にとった。不滅の食のエッセイだと思うが、読むと気持ちいいだけでは無くて、読み進むと腹が減ってきて、挙句の果てには書いてある料理を作り始めている、という強大な力を持った名著である。
 この本の、読んでいただくしかないのだが、その力強い文章は、広東料理の基本的な家庭料理から料亭料理に到るまで、中国の歴史やアジアの比較文化論なども交じえて、よくわかるように書いてある。
 大人になって、僕が香港に通うようになったのも、この本を読んだからだ。
 生まれて初めて香港に到着して、地下鉄やフェリーの乗りかたに戸惑ったりはしたが、食べるものについてはまったく迷わなかった。朝、ホテルを出ると、一直線に中華粥を食べに行き、その後腹ごなしの散歩の途中に飲茶屋で一服である。焼売や粽や肉饅をつまみにジャスミンティーを飲む。落ち着いたら店を変えて、雲呑麺をいただく。昼まで一気呵成であった。
 香港は食の都で、屋台から金ピカの料亭まで、安物から山海の珍味まで、いく層もの食堂があった。高級料亭は探すしかないが、日常的な食べ物なら、チラッと見渡して客が外まで溢れているような店に入れば、まず、外れることはない。今はiPhoneがあるから説明するまでも無い。
 さてと、下北沢のアパートである。布団に寝そべってその本を読んでいた僕は、どうしても豆油肉が食べたくなって、いてもたってもいられなくなった。豆油肉とは豚肉の醤油煮である。
 僕は近所の肉屋へ向った。豚のモモ肉を塊で500グラム切ってもらった。脂はついたままの肉の塊である。
 塊を3つに切った。鍋にごろっと入れる。他にネギを3本白いところから先まで5cm程度に切って入れる。醤油と水を半々がオリジナルレシピだ。僕は少し味醂を入れる。さあ、これだけで、あとは気長にトロ火で煮込むだけである。
 煮上がった肉を取りだして、好きなだけ包丁で薄切りして、残った肉は鍋に戻す。この料理が素晴らしいのは、冷蔵庫のない時代の人が考えた、保存料理である、というところだ。一日2回か3回か、メシ時に、鍋の醤油を沸騰させると、僕の経験では1週間弱はまったく問題が無いし、肉はますます味が濃くなって旨くなる。それは塩辛くはならない。うま味が濃くなる、という変化をしてくれるのがこの料理の不思議なところだ。
 そうそう、忘れてはならない、固茹で卵と干し椎茸を鍋にぶちこんでおくのだ。茹で卵は水分が飛んで行く感じで、どんどん小さく固まっていくが、これが旨い。ひとつの卵で御飯が一膳食べられてしまう。流行りのラーメン屋の黄身のトロっとした煮卵に慣れた人にはショックな醤油色かも知れないが、昔の塩ジャケを懐かしむ人には抵抗なく食べてもらえるのではないか。干し椎茸は肉の味にもうま味を与える。
 そして肉が無くなる頃には、鍋底が近ずいてくるが、この残りものでメンマを煮るのである。塩メンマを一晩水につけて塩ぬきし、豚のバラ肉と一緒に煮こんでやると、これまた素晴らしい料理の完成である。このメンマもやはり出来たてよりも、翌日の方が旨い、いや翌々日の方が旨いかもしれない。
 

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